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ぱーせんたいる percentile is an ordinal number

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文科系の大学で教えていると、パーセンタイル(percentile)という言葉を出したとき、パーセントとの違いが理解できている学生はほとんどいない感じがする。パーセント点という日本語(?)にしたところで、それは同じことだろう。まあ、パーセントは分かっていても(本当か?)、ppmとなるとかなりあやしいし、ppbまで知っていたら奇跡的かもしれない。理系であれば環境関連の学科だったら基礎知識のひとつであろうが...。でも、まあ、それはいい。ppmがまるでちんぷんかんぷんでも、地域の自然を守るためにもつべき能力はほかにもあるし、そちらのほうが大事かもしれない。

ただ、話者が大卒という設定だとしても、アメリカの映画では、「マイケルは、~では2nd percentile。~では5th percentileしかないの。でも不思議なことに、~では98th percentileもあるの」 といった言葉が、別に違和感もなく日常会話で成り立つんだなあ、と昨日のDVDを見ていて感じたのだ。日本だとそうはいかないだろう、と。

百分率と呼ばれるようにpercent(per=当たりの、cent=百)は割合であるが、percentileは序数、つまり、順位にあたる。簡単に言えば、全体が100あったとしたら、(小さい、少ない、低い)ほうから何番目の値かを意味することになる。だから日本語ではたとえば25パーセンタイルというが、英語では、twenty-fiveではなく、twenty-fifthと序数で表現することになる。

「復讐」(←しつこい!)のために列挙しておくと、one, two, three, four, five, six, seven, eight, nine, ten に対して序数では first, second, third, fourth, fifth, sixth, seventh, eighth, ninth, tenth という表記になるわけだ。

で、パーセンタイルは、常に、(小さい、少ない、低い)ほうから数えていくと約束するので、2パーセンタイルといえば、(全体が100人だとしたら)下から数えて2番目ということになる。だからちょうど集団の真ん中の位置にいれば50パーセンタイル(fiftieth percentile)になり、これをふつう、中央値(median)とも呼んでいるわけである。これと(算術)平均値がいつも同じとは限らないことの理解も、統計学では常識である。よく引き合いに出す例は、世帯ごとの平均貯蓄額の話である。2人以上の世帯の貯蓄額は平均で1638万円という統計があるが、ちょうどこの額の貯蓄がある人が「ああ、うちは世の中のちょうど真ん中なんだ」と早とちりしてはいけない、というお話。並外れて高額貯蓄をしている少数の人たちがいるので、その人たちのおかげで平均値はひきあげられているのである。並外れて少額というのは、貯蓄ゼロより悪いものはないので、余計にひきさげることはない。実際、中央値は988万円だという。だから、988万円より少なければ、人口の下半分に含まれることになるが、平均より下という世帯はもっと多くて、だいたい3分の2だという。つまり、うちは平均より多いと思える世帯は全体の3分の1しかいないことになる。

さて、それで、「マイケルは、~では2nd percentile。~では5th percentileしかないの。でも不思議なことに、~では98th percentileもあるの」の字幕である。翻訳、とくに字幕翻訳では、一瞬で消える文字をぱっと理解してもらうために、大胆な意訳、省略、言い換えを必要とする。翻訳のなかでも、相当に高度な技能が必要とされるジャンルだ。パーセンタイルは順位の概念なので、「~番目」という訳語も考えられそうだが、「2番目なの」「5番目なの」「でも98番目なの」としてはまるで何のことやらわからない(ふつうの日本人なら2番ならすごい、と思うだろう)。ある種の「点数」だと考えて「1点が最下位、100点が最上位」と理解してみれば、あんがい正鵠を射ているので、もしかしたらアメリカ人は日常会話ではそのように理解しているのかもしれない。しかし、字幕ではどうしたら誤解なく日本人に理解してもらえるのか。頭のひねりどころである。

書かれていた字幕は納得のいくものだった。

「マイケルは、~では下から2パーセント。~では下から5パーセントでしかないの。でも不思議なことに、~では上から2パーセントなの」といった処理だった(一字一句はたぶん記憶違いがあるだろうが、「98パーセンタイル」を「上から2パーセント」としているところがミソ)。パーセンタイルという(一般には意味不明な)言葉を使わず、概念的にもごまかさずに仕上げてあると思う。

字幕翻訳家は文科系出身者が目指すことが多いと思うし、言葉のプロでなくてはならないからそれは適切だと思うが、ほんとうにプロとして生き残るためには、こうした論理が勝っているような箇所もすいすいこなさないとならない(プロになれば、これだけの箇所に数日をかけて調べまわる時間的余裕はない)。物語の本筋に関係ないことも多いかもしれないが、これでミスをすると言い訳がしにくく、次の仕事がこなくなりそうなのがコワい。

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コメント(2)

いやあ、的確な説明、よく分かりました。助かりました。ありがとうございます。知識のかけらで生きておりますので、汗汗

はじめまして…でしょうか? コメントありがとうございました。いわゆる「理系になりきれない文系未練」の私ですし、(今はあまりそちらに時間がとれない)なんちゃって翻訳者のはしくれとして、プロの翻訳業の方にコメントいただけたのは光栄です。
もう時効かと思いますが、「理系的(?)知識のはしくれ」をこわごわと書いた
http://www.wako.ac.jp/~nonaka/translation/medical_1.htm
のようなものもありますので、もしなにかのご参考になれば幸いです。

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